SUSTAINABILITY
原点に立ち返り、
新たな企業理念のもとに、
ステークホルダーの皆さまと
豊かな未来を
執行役 代表執行役社長 CEO
細谷 敏幸
当社グループは、2023年5月に、三越伊勢丹グループ企業理念を再整理し発表しました。これは、コロナ禍の厳しい状況で自信をなくしたり、統合以降、各のれんの企業理念はあってもグループ全体で包含するものがなかったりというなかで、よりどころになるものを整理する必要があったからです。丸一年かけて、一人一人が何にやりがいを感じ、何を大切にし、当社グループがどうあってほしいかを地域事業会社・関係会社を含めた従業員約14,000人が考え、対話を行い、それを踏まえて経営陣も議論を重ねて再設計しました。
こうして、2021年に中期経営計画の発表にあたって掲げた、私たちの目指す姿(ビジョン)である「お客さまの暮らしを豊かにする、“特別な”百貨店を中核とした小売グループ」の実現に向け、「私たちの存在意義(ミッション)」と「私たちが大切にする思考と行動(バリューズ)」を明確化し、グループ一丸となって進んでいく考え方ができあがりました。
ミッションである“こころ動かす、ひとの力で。”には、「“私たち一人一人”の力で、“私たちのステークホルダー”の心を動かします」 との意味を込めています。世界中が地政学的な緊張の高まりや気候変動など、多くの難題を抱えている時代だからこそ、当社グループの強みである多様な人財の力を課題解決に活かし、持続可能な社会づくりに貢献してまいります。
「百貨店の再生」を目指した中期経営計画の2年目である2023年度の営業利益は、連結ベースで543億円を計上し、過去最高益となりました。これに大きく貢献したのがアプリ会員の仕組みです。エムアイカードとアプリ会員、デジタル会員を合計した識別できるお客さまの数は、2023年度末で約700万人と大きく増加しました。今、私たちは、こうしてつながったお客さまの「高感度な消費、上質な消費」のご要望にしっかりとお応えする「個客業」への進化を目指しています。「個のマーケティング」でお客さまお一人お一人のニーズを把握し、私たちが持つ百貨店以外のコンテンツについてもサービスを提供することで、お客さまとの関係性をさらに深めようとしています。
百貨店事業の再生に続く展開フェーズでは、金融、システム、物流、建装、人財などのグループ会社のスキルやノウハウを組み合わせることで、社会への提供価値を高め、百貨店を核とした将来のまちづくりにつなげてまいります。
2023年、三越は創業350周年を迎えました。伊勢丹も137年の長い歴史を持ちます。どちらも創業以来「お客さま第一」を掲げ、時代や社会環境の変化に対応しながらお客さまのご要望を先取りし、提案して今日まで続いてきました。三越伊勢丹グループのサステナビリティの原点は、まさにここにあります。
当社グループは、2018年に「サステナビリティ基本方針」を制定し、企業活動を通じて社会課題の解決に貢献することで豊かな未来と持続可能な社会の実現に向けた役割を果たすことを表明しています。この方針に基づく「重点取り組み(マテリアリティ)」として、①人・地域をつなぐ、②持続可能な環境・社会をつなぐ、③ひとの力の最大化、④グループガバナンス・コミュニケーションの4項目を特定し、推進しています。
①人・地域をつなぐ取り組みでは、地域のすばらしさを日本全国にお伝えすることを目的として2019年よりスタートした「三越伊勢丹ふるさと納税」など、地域の企業、団体、自治体と連携した地域活性化に取り組んでいます。また、文化展などを通じた日本の文化・伝統の継承や次世代のアーティストやクリエーターの育成も私どもに課せられた重要な役割と捉え、発信の場づくりをはじめとする活動の支援に努めています。
②持続可能な環境・社会をつなぐ取り組みとしては、主に脱炭素社会の実現を見据えた省エネ・創エネ・再エネの推進や循環型社会を目指した4R(Refuse、Reduce、Reuse、Recycle)などに尽力しています。特に気候変動に関しては、2021年に開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」において産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えるべく努力することが決議され、当社グループにおいても2021年度に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明しています。中長期の目標については、年度ごとの実績と共に開示を行っています。このような取り組みにより、2023年度には、国際的な環境NGOであるCDPの気候変動に関する調査において2年連続「Aリスト」企業に選定されました。
また、お取組先と共に、「責任ある調達」を推進し、「持続可能なサプライチェーン」の実現に向けた取り組みを進めることも大変重要です。当社グループでは、2023年3月に「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」の理念に賛同、署名し、4月にはグループの「人権方針」「調達方針」を改訂。6月には「お取組先行動規範」を新たに制定し、UNGCが提唱する、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野に関する10原則を順守していく姿勢を社内外に明確に示しています。
③ひとの力の最大化への取り組みとしては、自律的な成長を促すキャリア支援制度や従業員一人一人の潜在的な資質を見極めた中長期目線での戦略的な配属を通じ、生涯にわたるキャリアデベロップメントプログラム(生涯CDP)を構築し、会社・上司・従業員が三位一体となり人的資本の最大化を図っています。
この土台として力を入れているのが、対話の風土づくりです。経営と従業員の定期的な対話会の実施や、上司と部下による1on1ミーティングをはじめとした、各部署での対話により、企業理念や経営戦略への理解・浸透が深まってきたと感じています。
もう一つ重要なのは、「安心して働くことのできる職場環境づくり」です。私たちは2023年6月に、グループ労働組合と共に労使共同宣言を発信し、「適正な労働時間管理」と「ハラスメント・ゼロ」を重点取り組みとして掲げました。
また、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの実効性を高めるため、当社グループでは2023年度より、役員報酬の評価指標としてESG指標を採用しています。
このような取り組みの実効性を高めるべく、2021年度からは私を議長とした「サステナビリティ推進会議」を年2回開催し、取り組みの進捗確認のほか、ESGに関する最新動向や環境の変化を踏まえ、中長期の方向性について議論しています。サステナビリティ課題を含む事業へのリスクについても、私を議長とした「コンプライアンス・リスクマネジメント推進会議」にて検討・モニタリングを実施しています。
2022年度には三越伊勢丹ホールディングスにサステナビリティ推進部を設置し、6つの「ワーキンググループ」の運営を通じたグループ全体のサステナビリティ活動の推進を始めました。しかし、まだまだ各部門の業務や行動に反映しきれていないことも事実です。推進のスピードを上げるため、外部環境の変化はもとより、当社グループのミッション、強み、各事業、そして目指す姿に照らし、従業員一人一人の業務に組み付いたサステナビリティ経営を推進できる仕組みづくりを進めています。
サステナビリティ経営とは、私たちの強みを徹底的に活用し、社会課題を解決することで、ステークホルダーに喜びを与え、その対価として利益を得て、その利益を再投資することで次の社会課題を解決するという循環を回していくことだと考えます。これを事業戦略に組み入れ、従業員一人一人が実行していくことこそが、私たちの根本精神にも通ずる、社会的価値と経済的価値を共に高める持続可能な経営であり事業活動です。
三越伊勢丹グループは、これからもステークホルダーの皆さまとの対話を重ね、豊かな暮らしを未来につなぎ、より良い社会づくりに貢献することをお約束します。そして、世界中の人から注目され評価される企業グループとなり、末永く皆さまから愛され信頼され続けることができるよう、進化し続けます。
取締役 代表執行役社長 CEO
細谷 敏幸
2024年4月1日