贈りものの「こころ」をあらわす あたらしい「かたち」

感謝や祝福など、ことばだけでは伝えきれない、相手を大切に思う「こころ」が込められた贈りもの。
三越伊勢丹は、幅広い贈りものの機会に立ち会う百貨店だからこそ、日本古来の伝統に立ち返り、
小笠原流礼法宗家 小笠原敬承斎おがさわらけいしょうさい氏のアドバイスのもと、
贈りものの「かたち」である包装のあり方を見直しました。
それぞれの飾りが持つ意味を知り、礼儀作法に表れる日本人のこころ遣いについて、考えてみませんか。

掛け紙があたらしくなります

  • もろわな結び
    もろわな結び
  • ま結び
    ま結び
  • ことば以上に伝わる
    贈りものの「かたち」とは

    何を贈るかを決めたとき、気持ちを品物に「足す」表現の一つが包装。だからこそ、多くの意味や手法が生み出されてきました。相手を慮(おもんぱか)るがゆえ、ことば少なになりがちな日本人のコミュニケーションにおいて、意味を持った一つひとつの飾りは、所作や表情を補って気持ちを伝える、日本人ならではの「かたち」です。それぞれの目的に合わせて「包む」という行為があり、贈りものには相手を大切に思う「こころ」が込められています。

  • 水引みずひきの結び目に込める
    贈り手の「こころ」

    受け取った瞬間に、ことば以上に伝わる物が本当の贈りもの。引けば引くほど固く結ばれる「ま結び」は、人生に一度しかないという慶事、弔事などの贈答に用いられ、容易に解ける「もろわな結び」は何度あっても良いという意味を込めて、結婚や快気祝いなどを除くお祝い事全般に用います。日本のわび・さびにも通じる、無言のコミュニケーションの場で、贈り手の「こころ」を深く伝える水引は、ことばや想いを表現してくれる重要な「かたち」です。

  • 平穏無事への祈りから始まった
    日本の贈答文化

    贈りものの起源と言われているのが、神様へのお供え物。五穀豊穣(ごこくほうじょう)や健康を願い、人々は季節の食べ物やお酒を供え、日々の平穏を祈りました。農耕民族にとって貴重品であったスルメや昆布などの海の幸は珍重され、なかでもアワビはその希少性から、穢(けが)れなきもののシンボルに。時代を経て、不老長寿の薬や商人の商売繁盛を願うものとしても用いられるようになったアワビは、「熨斗(のし)」にかたちを変えて、贈りものを飾ります。

  • 熨斗(のし)アワビ

    掛け紙を飾る
    熨斗のしアワビ

    掛け紙を飾る「熨斗」とは、本来「熨斗アワビ」のこと。神様へのお供え物であるアワビを干して伸ばしたものを白い紙で包んだ姿で、神聖な意味を持ちます。これをデザインし、数字のなかで最も慶事にふさわしいとされる「9」を表現。左下部分には「永久」の「久」の隠し文字を入れて、贈る側のこころを強調します。

  • 神様にお供え物をする日
    五節供ごせっく」の意味

    日本の暦には1年に5回、伝統的な風習を行う季節の節目「節供」があります。陽の数字と考えられている奇数の重なりで定められた「節供」も、もともとは、神様にお供え物をして、豊作や平穏無事を祈願する日。例えば、かぶとや鯉のぼりを飾って男子の出世を祈る、5月5日の「端午(たんご)の節供」は、旧暦では梅雨のシーズン。季節の変わり目の体調を崩しやすい時期に、長雨で健康を害さないよう祈るとともに、自分の体と向き合う日、という意味も持っていたのです。

  • 分かち合うことで結束を高め
    感謝することで絆を深める

    なぜ、贈答品に食べ物やお酒が選ばれるのか。これは「神人共食(しんじんきょうしょく)」の発想から来ているとも言われています。日々の平穏への感謝が込められたお供え物、つまり「酒と肴(さかな)」を分かち合い、神様と同じものを体内に入れることでパワーが得られると考えられていたのです。一緒に働く人との絆。一緒に戦う人との絆。一緒に生きる人との絆。ともに飲食し、感謝することで、こころに余裕が生まれ、コミュニケーションは深まっていきます。