2025.04.16

 画像生成AI技術がもたらすデジタルでの新しい顧客体験

株式会社 三越伊勢丹オンラインストアグループ デジタルベース運営部 マネージャー 丸山透、AI model 株式会社 代表取締役CEO 谷口大季さま、株式会社 三越伊勢丹イノベーションズ 投資開発部長 髙橋裕二の写真

三越伊勢丹グループのアセットやノウハウと、スタートアップ企業の独創性に富むアイデアやテクノロジーを融合させ、小売における新たな価値創造を行う三越伊勢丹イノベーションズ。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として、2024年10月から資本業務提携を結んだのがAI model株式会社。主に三越伊勢丹オンラインストアでのサービスの質を高めることを目的とした出資ですが、協業への経緯やその後の取り組みなどについて話を聞きました。

株式会社 三越伊勢丹オンラインストアグループ デジタルベース運営部 マネージャー 丸山透、AI model 株式会社 代表取締役CEO 谷口大季さま、株式会社 三越伊勢丹イノベーションズ 投資開発部長 髙橋裕二の写真

三越伊勢丹グループの成長のために自らが「探索」を行う

Q. 最初にAI model 社の事業について教えていただけますか。

谷口:AImodel社では独自開発のAI技術でファッションモデルからタレント、広告クリエーション、動画などを生成するソリューションを提供しています。AIモデルの生成にあたっては特殊なトルソーに服を着用させて生成していくこともありますし、3DCGで服をデザインするブランドも増えているので、そのデータから生成するなどパターンはさまざまです。クライアントのメインはアパレル系の企業や広告を出稿される企業などでマーケティングからブランディングの領域、ECサイトのキービジュアルやコンテンツ制作、ささげ画像などでご活用いただくことが多いです。

AI model 株式会社 代表取締役CEO 谷口大季 写真
AI MODEL 写真
AI model 生成システム写真

Q. 三越伊勢丹イノベーションズはどのような組織なのか教えていただけますか。

髙橋:私たちは三越伊勢丹グループのビジョンや戦略の実現に向けて新規事業の創出や既存事業の強化を担う三越伊勢丹ホールディングスの子会社です。主にオープンイノベーションを推進するための「探索」を行なっている組織です。

Q.  「探索」のミッションは与えられるものでしょうか、それとも自らが行動を起こしているのでしょうか。

髙橋:三越伊勢丹グループの5年後、10年後の事業を想像した時に「こういう機能やコンテンツがあればもっと成長させることができる」と自分たちで仮説を立てて、先回りをするようなスタートアップ企業を探索して出資などを行なっています。AI model社も出資をしている企業のひとつになります。

株式会社 三越伊勢丹イノベーションズ 投資開発部長 髙橋裕二 写真

Q.  それらの三越伊勢丹イノベーションズの方針に、AI model社はどこが一致したのでしょうか。

髙橋:出資を決めたポイントは3つあります。まずはAI model社の独自技術によってデジタル上の顧客体験の向上が見込めること。次にAIによる画像生成技術によって三越伊勢丹グループのデジタル機能の拡張が期待できること。そして谷口さん自身が以前は広告やカタログなどクリエイティブ制作を手がけていたこともあり、三越伊勢丹グループの事業領域とも関わりが深く、業界の課題を理解した上で技術やサービスを提案いただけることに魅力を感じました。

Q.  AI model社としては三越伊勢丹イノベーションズからの出資をどのように感じたのでしょうか。

谷口:三越伊勢丹グループといえば百貨店業界を牽引し、日本のファッション業界を切り拓いてきた存在です。私たちAI model社もAI技術を活用してファッション業界などの発展につながるようなソリューションを提供していきたいという想いは強かったので、ぜひ出資いただきたいという気持ちでした。なので私たちの方から出資の検討をお願いしたのが始まりです。

Q.  AI model社へ出資するか、しないのかの検討期間はどれぐらいだったのでしょうか。

髙橋:意見交換には約1年の時間をかけました。そこで知れば知るほど三越伊勢丹グループのお客さまとの関係性をさらに深めるにはAI model社の技術が必要だと感じて出資を決定しました。三越伊勢丹のオンラインストアでお客さまのニーズに合わせてモデルをAIで生成できるというのは顧客体験の向上にも必ずつながるはずだと。

着用感をリアルに視覚化するためのAIによる生成モデル

Q.  三越伊勢丹オンラインストアグループはどのような事業を担当されているのでしょうか。

丸山:三越伊勢丹グループにおけるデジタル事業に関わるチームを集めたような組織になります。三越伊勢丹オンラインストアだけでなくメタバースアプリの「REV WORLDS(レヴワールズ)」、さらにふるさと納税や買取・引取サービスの「i'm green(アイム グリーン)」も同じ組織になります。

株式会社 三越伊勢丹オンラインストアグループ デジタルベース運営部 マネージャー 丸山透さま写真

Q.  丸山さんの主な業務は?

丸山:三越伊勢丹オンラインストアに掲載する商品画像やスペック情報などを制作しています。実は三越伊勢丹グループとAI model社との関係は、最初に三越伊勢丹オンラインストアとの協業からスタートしているんです。

谷口:私たちとしてもオンラインストア事業とは高いシナジーが見込めると、最初に三越伊勢丹オンラインストアグループに弊社のソリューションを提案いたしました。そこから三越伊勢丹イノベーションズにつないでいただいたという流れです。

Q.  三越伊勢丹オンラインストアとしてAI model社の提案は課題解決にどのようにつながりましたか。

丸山:ブランドによっては自分たちが築き上げてきた世界観を壊したくないと、オンラインストアに掲載する際のモデルの選定はかなりシビアな場合もあります。そのようなブランドの意向に沿えるモデルをキャスティングするのは大きな労力が必要でした。それがブランドやバイヤーが希望するモデルのイメージをAI model社と初期段階から共有し、それをもとにAIで生成いただいているのでブレが少ない状態でオンラインストアへの掲載が実現しています。

Q.  ブランドとの交渉もスムーズになったということですね。

丸山:そもそもモデルに着用させることすらハードルが高いブランドもありましたが、私たちとしてはお客さまにオンライン上でも納得して購入いただくために「着用感をビジュアル化する」というのは大切にしている要素です。ブランド側が着用を認めてくれるモデルのブラッシュアップを繰り返しながら提案できるのもAI model社さまの技術のおかげで、現在はオンラインストアにおける自社制作の画像のうち約10%のモデルがAI model社の生成によるものです。

三越伊勢丹専用AIモデルの画像

Q.  AI model社との協業はオンラインストアとしてのコンバージョンにも好影響をもたらしていますか。

丸山:ブランドによって結果は異なりますが、これまではモデルなしで撮影していた商品をAIモデルに着用させたことで購買率が向上したデータも出ています。

Q.   生成するモデルについて気をつけていることなどはありますか。

AIなので完璧すぎるほど完璧なモデルを生成することは可能です。ですが商品を買い付けるバイヤーもその服を着用しているお客さま像を当然持っていますし、お客さまにも自分が着用していることをイメージしてもらうためにリアリティというものは意識しています。「リアルでありながらの美しさ」というのはテーマのようになっています。

株式会社 三越伊勢丹オンラインストアグループ デジタルベース運営部 マネージャー 丸山透さま写真

三越伊勢丹グループの成長のために中長期視点で出資を考えている

Q.   三越伊勢丹イノベーションズが考える出資を伴う事業提携のメリットはなんでしょうか。

髙橋:資本参画するという責任が生まれることによって目指すべき方向性、そこに向かっていく熱量、コミットメントに対するモチベーションが同じであり続けることがいちばんのメリットのように感じます。お互いの事業についてオープンに協議できるのも資本業務提携ならではで、AI model社の新技術の開発状況、三越伊勢丹が今後の展望として練っている戦略を開示し合っています。AI model社とは将来にわたってのパートナーであるための信頼関係を築けていると思っています。

谷口:私も同じ意見ですが加えるとしたら、三越伊勢丹は培ってきた資産が膨大で、それはスタートアップ企業である私たちは所有できていないものばかりです。その資産とテクノロジーと掛け合わせてこれからの未来のためになることを一緒に考える。その取り組みに参画させていただけるのはすごく有意義だと感じています。

髙橋:AI model社とは同じ方向を目指しているシンパシーを感じております。私たちはCVCとして出資していますが短期的なキャピタルゲインを目的としているのではなく、三越伊勢丹グループの成長につながる中長期的な取り組みとして考えています。

AI model 株式会社 代表取締役CEO 谷口大季 株式会社 三越伊勢丹イノベーションズ 投資開発部長 髙橋裕二 写真

Q.   AI model社としては今後の中長期的な展望などはどのように考えていますか。

谷口:最近は海外企業からの問い合わせも増えているので、グローバルにソリューションを提供することも視野に入れています。あとはモデルをキャスティングして、撮影をして、シーズンのルックブックを作成するというのはかなり資本力を求められることで、それを続けることが難しくて素晴らしい才能があるにも関わらずブランドを辞めるというケースも見てきています。そんな方たちの未来をAI model社の技術でサポートしていくのが目標です。

役割は三者三様でも目指すべきビジョンはこれからも同じ

Q.   三越伊勢丹イノベーションズ、三越伊勢丹オンラインストアグループ、AI model社との協業でさらに目指していきたいことはありますか。

髙橋:お客さまへの提供価値をどんどん進化させていく必要があります。それは百貨店業で培ったノウハウだけでは難しく、外部のイノベーションは絶対に欠かせません。そのためにCVCという手段を活用していきたいです。AI model社の発展は、三越伊勢丹グループに大きく関わってくるはずです。

谷口:三越伊勢丹は国内の選りすぐりの品々とお客さまをつなげている場所なので国内企業の成長をサポートしていると言えますし、海外ブランドの日本進出のきっかけにも関わっていると思っています。そのような企業が生成AIを活用して自分たちの強みをさらに伸ばしていこうと判断いただいたことは私たちの業界にとっては大きなことです。一昔前は生成AIは代替のように捉えられることもありましたが、そういう見られ方をすることも今は無くなりました。

AI model 株式会社 代表取締役CEO 谷口大季 写真

Q.   それぞれの役割で、それぞれの成長や発展に貢献し合っているという印象なのですが、ここまでうまくいっている最大の理由はなんでしょうか。

髙橋:私も丸山も谷口さんも役割は三者三様ですが、目指すべきビジョンは一致していたというのが大きいです。一方だけの想いを相手に押し付けるのではなくて、やりたい事もやるべき事も噛み合って両輪の推進力が生まれていることが重要です。事業シナジーを生み出すことがCVCの目的なので素晴らしい実例になっている自信があります。

丸山:自分たち事業部が描くビジョンとグループが描くビジョンが一致していても、それを叶えるためのプロセスが異なることはよくあることです。だからこそ同じゴールを目指すために第三者の冷静な視点から意見を言ってくれる三越伊勢丹イノベーションズの存在はとても心強いです。

髙橋:三越伊勢丹イノベーションズは三越伊勢丹グループとスタートアップの橋渡し役でありたいです。ゴールへの到達手段も事業部側とスタートアップ側では異なるのは当然であるため、これからもそこの橋渡しのような役割であり続けたいと思っています。

株式会社 三越伊勢丹オンラインストアグループ デジタルベース運営部 マネージャー 丸山透、AI model 株式会社 代表取締役CEO 谷口大季さま、株式会社 三越伊勢丹イノベーションズ 投資開発部長 髙橋裕二の写真