2022.08.29

小売領域とAIの協業経験をステップに、オープンイノベーションを加速させ、想像する未来を創造する。

株式会社GAUSS 代表取締役社長 宇都宮 綱紀さま、株式会社GAUSS 取締役副社長 長谷川 正平さま、株式会社三越伊勢丹ホールディングス 小田 将輝さまの写真

株式会社GAUSS 代表取締役社長 宇都宮 綱紀さま

株式会社GAUSS 取締役副社長 長谷川 正平さま

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 小田 将輝

GAUSS創業の経緯

AI競馬予想サービス「SIVA」を市場に届ける

宇都宮さま(以下、宇都宮):私は高校卒業後、建築現場で仕事をしていましたが、当時のIT業界の成長ぶりは目覚ましく、そのスケール感に憧れていて、自分もITで起業しようと思ったのがそもそもの始まりです。

 

IT企業へ転職して5年間、プログラマー、SEとしてキャリアを積みながら興味をもったのがディープラーニングでした。機械学習技術で競馬予想をする人工知能のソフトをつくり新規事業提案したのですが、社内で事業化に至りませんでした。しかし、個人的に開発は進めていたので、これをどうしても競馬ユーザーに届けたいと思い、SNSやスマホアプリでサービスを開始したところユーザーが増え、「ニコニコ生放送」で紹介され大きな話題になり事業化の手応えを感じ、起業しました。

株式会社GAUSS 代表取締役社長 宇都宮 綱紀さま写真

長谷川さま(以下、長谷川):私が宇都宮に出会ったのは起業の直前です。グローバルIT企業でコンサルタントとして勤めた後、起業するためにAI開発できる技術者を探そうと準備していたときに、共通の知人から宇都宮を紹介されました。すでに「SIVA」のWebやスマホアプリがリリースされており、フルスタックで開発力のある素晴らしいパートナーと巡り合えたと思いました。

事業の三本柱が成長を促進

「AIを簡単にする」ことがコンセプト

宇都宮:「SIVA」は現在、3つある事業の柱の一つになっています。圧倒的な的中率からテレビをはじめとするメディアで紹介され、競馬ユーザーに受入れられました。素人でも玄人でも簡単に扱えるというのがこのサービスの特徴で、2019年4月からはさらなる成長と発展のために株式会社CYMES(毎日新聞社とスポーツニッポン新聞社のJV)と協業し、日刊スポーツ新聞社のAI予想サービスを請け負っています。

 

また、AIを活用した新規事業のコンサルティングも事業の柱として成長しています。スマホや5Gなど通信技術の向上に対応した、DXによる新規事業の立ち上げや既存事業の再構築をサポートしています。もうひとつは、AI開発パッケージのGFP(GAUSS Foundation Platform)やAIカメラのGAUDiEYEがあります。これは誰もがAIを活用できるサービスで、SIVA同様に「簡単にする」ことをコンセプトに、難しい知識が必要なく、クラウド上で直感的に操作でき、開発済モデル、学習済モデルが搭載されています。多くの業界、企業で実積があり、使いやすさ、メンテナンス性などが高く評価されています。これからもAIを活用して社会に新しい価値を提供していきたいと考えています。

三越伊勢丹イノベーションズからGAUSSへ出資、協業へ

小売とAI技術を融合した協業のシナジー効果

長谷川:弊社は出資以前に三越伊勢丹様とご縁をいただき、三越伊勢丹グループ様の小売の現場でAIをさまざまな場面で活用できると考えました。そこでオンライン化粧品販売サイトを始め、いくつかの部署へプレゼンテーションさせていただき、物流部へのAI活用で協業開始させていただきました。

株式会社GAUSS 取締役副社長 長谷川 正平さま写真

小田:三越伊勢丹グループはオンラインでもオフラインでも「最高の顧客体験」を提供するため新たな技術や仕組みの導入を推進しています。その過程で、AIの技術力に加え、課題解決力を有するGAUSS様と出会い、出資を決めました。GAUSS様は創業当時から、小売・EC業界向けのAI技術の研究開発を行っており、企業の課題解決能力も高いと感じ、三越伊勢丹グループとGAUSS様のAI技術を融合した協業はシナジー効果が高いと期待しました。

 

小田:出資後の協業としては、2021年4月から6月にかけて物流業務効率化プロジェクトを行いました。物流倉庫で行う納品作業を、AI-OCR(光学式文字読取)の技術を活用することで効率化するシステム開発に取り組みました。現状、PoC(概念実証)の取組ではありますが、この新しいチャレンジには大きな意義があったと思っています。今後物流業務における自動化、省人化、物流予測といったテーマを継続して取り組んでいきたいと考えています。

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 小田 将輝の写真

人材交流の成果

出向で得た新たな知見、人的ネットワークを今後に活かす

小田:2021年度、協業の一環として人材交流を行い、三越伊勢丹グループから私が1年間、出向しました。私は2010年の入社で、店頭販売を経験した後、リビング領域のバイヤーとしてキャリアを積んできました。2020年の秋にGAUSS様への出向が社内公募され、応募しました。

 

以前より、未来の小売業の姿を思い描いて実行していきたいと考えており、今後当たり前に使われるテクノロジーを自分のなかで解釈して活用できるようにして、新しいビジネスを創造していきたいと思っていました。GAUSS様の実積や宇都宮さんと長谷川さんの経歴を拝見して、自分が身に付けたい力を学ぶうえで魅力的に映り、出向を希望しました。

 

長谷川:小田さんには2021年4月から1年間、弊社の営業企画としてクライアントへのAIソリューションの提案、受注業務に携わってもらいました。当初はベンチャーと大手の差に驚いたと思いますが、多様なメンバーとコミュニケーションを取りながら、キャッチアップも早く、どんどん成長して業務を遂行するようになりクライアントから信頼関係を得ることができていたと思います。

 

宇都宮:IT業界は理系だと思われがちですが、相手の要望をどれだけ理解できるかが重要なので、国語力、コミュニケーション力が必要です。その点で小田さんは優れていたので即戦力として活躍していました。

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小田:実際には、学習塾の学習用アプリを提案し入札案件にも参加しました。AIシステムの開発は、百貨店での業務と比べて、ドライな印象もあったのですが、実際には顧客に「システム」というカタチのないものを納品するからこそ、人間同士の信頼関係や人とのつながりが大切だということを実感しました。


長谷川:小田さんがリーダーとして遂行した仕事で印象深いのは、渋谷区のハロウィーンにおける人流予測です。当初の経営判断では受けなかった仕事なのですが小田さんから「これはGAUSSのブランディングになるのでチャレンジしたい」という申し出があり、小田さんは周りの社員も巻き込んで見事にミッションを達成しました。

 

それをきっかけに渋谷区のソーシャルイノベーションウィークで弊社が登壇する機会を得て、そこからまた営業につながりました。出向しなければできなかったことをいろいろ経験したことで、オンラインとオフラインを融合していくうえでの財産になったと思います。

 

小田:今回の出向を通して、外部から自社を見ることで感じたのですが、われわれ三越伊勢丹グループは、社外から新たな領域の知見や経験をさらに積極的に取り組むべきであると思います。そのことで、課題を解決するための新たな技術や考え方に出会うことが出来ると感じています。出向をして、新たな視点を持つことのできたので、その部分をスムーズに進めていく役割を担っていきたいと考えています。

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長谷川:今回の出向を受入れた意味は双方にあると思います。三越伊勢丹グループ様は、イノベーションを起こすうえで知の探索(さまざまな新しい技術やビジネスアイディアを幅広く探すこと)が必要があり、小田さんはまさにそれを体現したわけです。戻ってからもオープンイノベーションの推進のため社内外からリソースを取り入れようとしています。

 

私たちとしても今後の協業においてお互いが歩み寄る必要があり、弊社は業務理解を深める一方で、三越伊勢丹グループ様にもAIの理解を深めていただきたい部分があるので、小田さんが1年間にわたりAIに触れ、感じ、学んだことで、私たちにとってビジネスをスムーズに行えると期待しています。「AIにできること、できないこと」を相互に理解してソリューションを考えていくうえでとても有意義なことだと思います。

今後の取り組み、展望

新しい小売、新宿・日本橋の「まち化」実現に向けた協業

小田:私は帰任後、三越伊勢丹イノベーションズの担当になりました。スタートアップの皆さまとグループの事業を紐づけて新しい価値を創造するCVC業務を行う部署にいます。今後、三越伊勢丹のグループが新宿と日本橋エリアで百貨店を中心とした、「まち化」を進める中で、自分たちでは持っていない小売を強化する機能や、まちづくりに必要な仕組みをどんどん取り入れるため、さまざまなスタートアップと組んでいきたいと思っています。

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宇都宮:弊社は「想像した未来を創造する」というビジョンのもと、新しいプロダクト開発を進めています。昨年開発したAIカメラシステム(GAUDi EYE)やGFPのサービスをさらに磨き上げてクライアントの新規事業や課題解決を行っていきます。そのなかで三越伊勢丹様に対しても、AIカメラを活用した協業を提案中です。また店舗内の人流マーケティングにも可能性がありますし広告にも活用できると思います。チャレンジできるところを広く模索して協業につなげていきたいと考えています。