vol.7 包装紙の魅力

「あなた、たった今これが届きましたよ」妻の伊代が、美しい包装紙に包まれた大きな箱を持って書斎に入ってきた。どうやら贈答品のようだ。一体誰から?「出版社の夏目さんが贈ってくださったようですわ」「夏目君から? 何だろう、思い当たる節がないなぁ…」私は彼が勤める出版社の雑誌に、推理小説を連載している小説家だ。次回分の原稿は先日ちゃんと書き上げたし、その次の内容についてもすでに打ち合わせを済ませている。そうか、日頃からいろいろと面倒を見ている私に、夏目君から感謝の気持ちが贈られてきたというわけだな!よく見れば、包装紙には三越百貨店の封緘シールが貼られているではないか。何が入っているのか、期待に胸を膨らませながら包装紙を破ろうと手を掛けた、その時だ。

包装紙

「包装紙は奇麗に開けてくださいね。後で使いますから」はて、包装紙を一体何に使おうというのだ?そっちが気になり、外した包装紙を持って居間へと向かった。「奇麗な包装紙! お母様、この包装紙くださらない。私、これで本のカバーを作りたいの」長女の丹子が帰宅早々、先ほどの包装紙を見て妻におねだりをしている。なるほど、ブックカバーに活用するのか。「ぼくも欲しい! おもちゃ箱に貼り付けて、毎日プレゼントをもらった気分になりたいんだ」隣にいた越太郎まで、包装紙に興味を示していた。「はいはい、ちゃんとあげますから。ところで、こんな包装紙もあるのよ。三越百貨店の外観を描いたものや、鉄道の路線図を描いたもの、あるいは雛人形…。二人はどれがいいの?」あれがいい、やっぱりこっちがいいとはしゃぐ子供たちの姿を見ていると、私の心も和んでくる。「お母様はね、この包装紙を使ってお弁当を包んだり、小物を入れるポチ袋や封筒を作ろうと考えているの。だから奇麗な包装紙は捨てずに取ってあったのよ」

包装紙 包装紙

ほう、伊代まで。さすが我が家族、素敵なアイデアを持っていると感心する。後日、夏目君が我が家にやってきた。「へぇ、奥様だけでなく、お子様たちまで包装紙を活用して楽しんでいるんですか。いい話ですねぇ」先日の出来事を話して聞かせたのだ。「包装紙ってのは奥が深いですねぇ」ともつぶやいている。「包装紙が誕生する前は、もっぱら風呂敷が使われていた。三越百貨店では明治44年頃から、印刷された包装紙を使い始めたらしい。以来、季節や商戦に合わせて、いろいろな図案の包装紙が誕生したんだよ。ちなみに優れた包装紙というのは、美しく、しかも丈夫でなければならない。百貨店から持ち帰った後も、個人的に再び使いたくなる様な包装紙こそが、魅力ある包装紙といえるだろうね」「なるほど、さすが先生だ。造詣が深いですね。ところで、先日お贈りした品物、お気に召していただけましたでしょうか?」そういえばあの贈答品、包装紙に夢中になってしまい、中身も見ずに放置したままだぞ…

包装紙
今も昔も、その美しさに定評のある三越の包装紙。屋号を染めた風呂敷に代わり、三越では明治の中頃から包装紙を使い始めました。その後、季節や祭事などに応じてデザインを増やし、品質の向上を図ると同時に、商品を包んだ時の美しさを追求してきました。昭和に入り、洋画家の猪熊弦一郎氏によるデザインで誕生したのが、「華ひらく」という名前がついた三越の包装紙です。
次回の物語も、乞うご期待ください。
三越の先進性、清新性を印象づける包装紙「華ひらく」
猪熊 弦一郎氏 photo by Akira Takahashi「華ひらく」包装紙原画
三越を代表する包装紙「華ひらく」は、1950年(昭和25年)のクリスマスプレゼント用のデザインとして誕生しました。画家の猪熊弦一郎氏によるデザイン画に、当時グラフィックデザイナーとして三越に在籍していた、やなせたかし氏による「Mitsukoshi」のロゴを加えたコラボレーション作品です。大変好評を博したため、翌年からは季節を問わず、年間を通じて全店で使用することになりました。「華ひらく」と名付けられていますが、そのモチーフとなったのは猪熊氏が千葉・犬吠埼の海岸を散歩中に見つけた、波に打たれて角がなくなった丸い石だそうです。『一つとして同じ形のないシンプルで不思議な造形美であった。「これだ。」と思った。波にも風にも負けずに頑固で強いということと、自然のつくる造形の美しさをモチーフにした』(猪熊氏)原画は1930年代にパリで活躍したエルザ・スキャパレリが好んで使った「スキャパレリピンク」で描かれています。同時期にパリに滞在していた猪熊氏が、現地で受けた影響を発露した作品ともいえるでしょう。また品物を包むと、どの角度から見ても花が開いているように見えるデザインに、やなせ氏はとても感心したそうです。誕生から70年近くが経ち、今や三越のシンボルとなった「華ひらく」。人混みの中でも、遠くから一望しても、ひと目で三越で購入された商品だと理解できます。元々は商品を包む資材に過ぎなかった包装紙ですが、三越ならではの先進性とこだわりによって、今や三越自身を表し、C.I.を具現化するまでに発展しました。そして今後も、清新な企業イメージを強く印象づける役割を担っていくことでしょう。 プロフィール 1902年生まれ、1993年没。 香川県高松市出身。東京美術学校(現・東京芸術大学)西洋画科に入学し、藤島武二に師事。1938年にはフランスに移り、アンリ・マティスの指導を受けるも、戦争のために帰国。戦後1949年に慶應義塾大学学生ホールの壁画「デモクラシー」や名古屋丸栄ホテルホール壁画「愛の誕生」を、1951年には上野駅に壁画「自由」などを完成。1955年には活動の拠点をニューヨークに移し、それまでの具象画から抽象画へと作風が変化する。1973年に脳血栓で倒れた後、1975年からは日本と温暖なハワイで創作活動を続け、1980年には勲三等瑞宝章を受章する。なおニューヨーク時代の作品として、白地に濃淡のブルーとスキャパレリレッドの3色を組み合わせた三越のショッパー(手提紙袋)のデザインも行った。
企画担当者より
根石 賢太郎:1998年 伊勢丹入社主に婦人服部門を担当し、2013年に再開発担当。2015年より現職。三越日本橋本店「ミライプロジェクト」などの再開発へ向けたプロジェクト、「ブックシェアカフェ」、「ジャパンテクノロジー」、「農業女子 ハーベストフェス」などの中央ホール企画を担当。石崎 文則:1998年 三越入社 主に紳士服、販売促進部門を担当し、2013年より営業計画担当。 1,主に全館規模の施策の立案・運営までの実行 2,「店の施策を街へ」「街の施策を店へ」双方へクロスさせ効果の最大化をはかる事が主なミッション。
三越日本橋本店中央ホールにて3月30日から4月5日まで、三越を代表する包装紙「華ひらく」と、その生みの親である猪熊弦一郎画伯にフィーチャーした展覧会「猪熊弦一郎と『華ひらく』展」を開催しました。香川・丸亀市にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館設立25年を記念しての運びとなります。 会場内には「華ひらく」の原画やモチーフとなった石をはじめ、フラワーストーン型のバルーンや天女(まごころ)像などを配置し、特にその2つが一緒に納まる場所では大勢のお客様が写真を撮られていました。また大勢の社員も会場に足を運び、私を含め三越の人間は「華ひらく」が大好きである事を改めて実感しました。 この「華ひらく」は封印テープをはがすと「はらりと華がひらく」ように紙質が工夫されているため、新入社員は梱包の際、絶対にセロテープで補助止めしないよう厳しく先輩に指導されます。慣れてくると、どの梱包も同じ位置に三越のロゴを並べることができるようになり、それをご覧になったお客様が驚かれ、また喜んでくださったことが今でも思い出として残っています。 10月の創業祭におきましても、「華ひらく」の特集企画を実施する予定です。オリジナル商品もご用意しますので、ぜひご期待ください。
華ひらくコレクションの模様 三越日本橋本店 高松三越
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