古今 KOKON vol.1 秋の夜長の旨しもの

秋虫が鳴いている。私は、縁側の 安楽椅子 に腰かけ、月に照らされた庭を眺めていた。私は、推理小説家である。自分で言うのもなんだが、連載二本を抱える巷ではそれと知られた作家なのである。そのうちの一本、次々に起こる難事件を名探偵が鮮やかに解決していく人気シリーズの締切りが、明朝に迫っている。今夜中に書き上げなければならないのだが、読者をあっと驚かせるようなトリックがどうしても思いつかなかった。仕様がない。こんなときは、酒に限る。これは逃げているのではない、

よい考えを思いつくための神聖な行為なのであるとひとり理屈をこねながら、私はジョニー・ウォーカーをグラスに満たした。筆が進まないとき、私はよく縁側で酒を飲む。執筆に悩むことは日常茶飯事なのだから、もはや縁側は第二の書斎とも言える。「大丈夫ですか?間に合うんですか 」小生意気な編集者の口癖が、頭のなかに鳴り響く。私は、その声を掻き消すようにグラスに残った酒を飲み干し、縁側の窓を開け放った。やわらかな涼風が、するりと流れ込んできた。なんと心地のよい夜だろうか。こんなにも頭を悩ませているのに、いつにもまして酒が旨い。だんだんと酔いがまわった私は、「思いつかないものは、思いつかないのだ…!」という諦めの境地へ至った。そして椅子から立ち上がり、戸棚からサーディンの缶詰と酢漬けした野菜の瓶詰を取り出した。

さあ、宴の始まりだ。吹っ切れた私は、腰を据えて酒を飲み、肴をつまんだ。秋の夜空には、雲がゆっくりと流れ、やがて月を隠した。私はまだまだ飲むつもりで、卓上の電気ランプスタンドを灯した。やわらかな明かりに顔を照らされた瞬間、「そういえば……」一筋の光が、私の頭のなかに差し込む。ハッとなった私は、すぐに書斎へ駆け込んでいった。私は、机の引き出しから一冊の分厚い日記帳を取り出し、慌ただしくページをめくった。或る日、ふと思い立って書きつけたことが、新しいトリックの手がかりになるのでは、と閃いたのだ。「これだ、これなら使える!」確信した私は、万年筆を手に、原稿用紙に一気に書きなぐり始めた。

秋の夜は長い。夜通し書いて、書いて、書きまくった。翌朝、編集者が原稿を取りに来た。もちろん、小説は完成している。これが一流作家の仕事なのだと胸を張り、原稿を渡す。すると、一瞥した編集者が一言、「先生、今日の締切り、こっちの連載じゃないです…!」慌てふためく私に、「大丈夫ですか?間に合うんですか 」という非情な声が突き刺さった。

三越では、大正3(1914)年に、日本の百貨店で初となる「食品部」が誕生。当時の日本ではまだ珍しい、さまざまな輸入食品などを取り扱っていました。それらの品物に囲まれた大正時代の人々が、どのように秋の夜長を過ごしたのか、あなたも想像してみませんか。
和洋酒バイヤーより
高橋隼人 基幹店食品統括部 和洋酒バイヤー2004年入社。グランドカーヴでの販売と催事のアシスタントバイヤーで経験を重ね2013年度より現職。国内外を飛び回り、日々味を探求。
おすすめします。ウイスキーの新しい楽しみ方
人気のバーでは、ハイボールに黒コショウや生のおろししょうがなどの香辛料を加えるのが話題になっています。おつまみには、ちりめんじゃこやちりめん山椒などもおすすめ。寒い時期には、あえてティーカップでウイスキーのお湯割りを楽しむのはいかがでしょう。体が温まるだけではなく、香りがさらに楽しめますよ。

三越はじめて物語 日本で初めて三越が行った取り組みをご紹介します。

大正6年「三越」第7巻6号より 1917年 東北名産品陳列会 日本初の物産展 東北6県の知事の賛同も得て開かれた物産展。東北各地から集められた、絹織物、漆器、陶磁器、金銀細工、水産物、酒などのさまざまな商品が販売されました。また、15日間の期間中、特設の舞台にて東北各地の舞踊が演じられ、こちらもたいへんな盛況となりました。
 
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